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2010年3月18日 (木)

染色補正という医学

毎日のように衣服を着ていれば、洗濯は欠かせない。今はすごい性能の洗濯機が各家電メーカーからたくさん出ており、いままでクリーニングに出さなければ落ちなかった汚れやちょっとしたシミまで全自動でキレイにしてくれる。文明の利器とはすごいものだ。

しかし、着物はそうはいかない。洗える着物と銘打ったポリエステル素材の着物でさえ洗濯機に入れてあとはお任せとはいかない。自分で洗う人もいるが、手洗いでやさしく洗わなければ後々取り返しがつかなくなることもある。ましてや絹の着物ならなおさら自分で洗う訳にはいかない。今はクリーニング店でも絹の着物を扱う所も増えて来たが、やはりかなり気を遣うようだ。

1、染色補正技能士とは
そんな着物の直し専門の職人がいることはご存知だろうか。正式名は「染色補正技能士」でこの技能は昭和46年に労働省から認定された染み抜きなどの補正技能の唯一の国家資格である。技能級として1級と2級に分かれておりその試験は学科と技能があり非常に厳しい狭き門である。

2級技能士の受験資格は実務経験2年以上、1級技能士経験が7年以上あるいは2級合格後の実務経験2年以上というもので、誰でも受けられる試験ではない。学科試験は実に50問!実技は2級で3課題を4時間半かけて。1級はより難しい3課題をなんと6時間もかけて試験するという超難関だ。
またその地位も法的に守られており、職業能力開発促進法により、染色技能士資格を持っていないものがその名を称することは出来ないのである。これは和裁士も同様だ。

2、染色補正技能士の仕事と匠の技術
染色補正技能士の仕事は様々だ。身近なところでは「しみ抜き」が一番解りやすいだろう。しかしこのしみ抜きが容易ではない。もちろんすべてが手作業だ。付いたシミがどんなものかを詳しく調べ、そのシミの成分にあった薬品をその都度調合する。しかも生地にダメージを出来るだけ与えないように優しく優しくだ。そしてどんなに簡単に落ちたシミでもいっしょに地の色が抜けている場合がほとんどだ。その地色が抜けてしまった部分を回りの色と全く同じになるように染色補正していく。その補正具合といったらまさに神業だ。

また絹の宿命であり、別名「絹のガン」とも呼ばれている黄変も完全にとは言わないまでもほとんどわからなくなるまでに落とすことが出来る。また圧巻なのは最も難しい部類に入る「柄の中の黄変ジミ落とし」だ。よくそこまで出来るなというくらい細かい作業で黄変を落としまたは抑え、脱色してしまった部分を見事なまでに染色補正技術で再現する。まさに匠の技だ。
もちろん他にも「紋様消し」「地直し」「ボカシ合わせ」「小紋直し」他さまざまな直し技術を持っておりまさに着物版スーパードクターだ。

3、直しの分野をいかに活かすか
そんな染色補正技能士も呉服業界の市場縮小とともに激減している。着物売上が激減するのと平行して直し依頼も激減している。この着物の直しに関わる人達も呉服が売れなくなるのは死活問題だ。昨今の古着人気でイメージ的には直し分野に需要があるように思われがちだが、古着を買う人は殆どといっていいほど直しをしない。古着は古着として認識して着るために直すという観念がそこには存在しない。また、「きものを着る」という行為に平行して直しは発生しやすいのだが、着用率は低下の一途を辿っており、当然ながら直しの仕事は減っている。

もちろん京洗いやシミ抜きなどの受注は小売店から、またはクリーニング店で手に負えないものの依頼などが中心ではあるが、問屋からの依頼も非常に多い。その問屋が業績不振になれば補正業の仕事も減ってしまう。ひとくちに呉服の流通構造の見直し等と簡単にいうが、それによって仕事を確保している人達に大きく直撃することも忘れてはならない。

*ネット通販との連携の可能性
では、この直しの分野の仕事をどう活かしていくのかということが悉皆(しっかい)分野のきものビジネスを考える上でしっかり考えることが重要だ。
まずは小売店からの受注を広げてくことが一番早い。今までは実店舗からの受注契約という形が多かったが、成長しているネット通販業者との連携強化も絶対的に視野に入れるべきである。現時点でネット通販でお手入れサービス等を平行しているところは非常に少ない。物流費コストの問題やお預かりする着物に万一のことがあった場合のリスクは計り知れないものであるからだ。

逆にネット通販を利用する着物購入客はあまり実店舗には足を運ばない傾向が強い。これはたくさんの選択肢の中から選ぶ楽しさや価格の明確さ、きものを勧められることの恐怖感への回避などが理由だ。であるなら買った着物をケアする場合に呉服店へ持っていくのも勇気がいることとなる。現に着物を扱うクリーニング店への受注がにわかに増えていることも確かだ。

この状況を把握し、ネット業者側のリスクや物流費などのコスト負担を解消した上で実店舗よりも低価格であらゆる直しに対応出来るケアサービスをネット業者と提携しWin−Winの関係が作れたら新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がある。きものネット通販市場規模500億円のうち仮に1%の5億円がケア売上として新たに捻出されるのなら大きなチャンスである。もちろんこれには様々な壁があるとしてもチャレンジする価値は大いにあると考える。

その他、異業種との連携も視野に入れたい。「人形の衣装直し」「ファブリック系のインテリアの直し」など他業種がクリーニングとして持ちこむものには全て別の形で可能性がある。着物だけではないそういった布に関係する業種との連携も視野に入れるとマーケットは広がるかもしれない。


しかしながら、やはり染色補正技能士は呉服中心であって欲しいという願望は強い。だからこそビジネスの安定を図るには数多くの呉服関連企業との連携は必須だ。それを土台として消費者、ネット、異業種といった仕事の巾を広げていくと良いのではないかと思う。

ここで着物を愛する方達にぜひともこの染色補正技能士という職人の存在とその技能の素晴らしさを知っておいて欲しい。彼らがいるからこそ、汚れやシミ、黄変、その他の直し等が可能であり、着物がいつまでも長持ち出来るのだ。

最後に皆さんに染色補正技術の重要さを是非とも理解してもらうべく、染色補正技能の教本の一節を紹介しておく。

「染色補正とは、これら一旦損傷した染織品の生命力を延ばすために特別な
 技術をほどこし、経済的価値を復元する治療医学ともいうべき 染色分野に
 おける欠くことのできない重要な技術である。」
 (染色補正の技術・技法より)

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