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2010年3月28日 (日)

本場奄美大島紬のおはなし

昨日は横浜の山本きもの工房にお邪魔した。山本きもの工房は本場奄美大島紬協同組合からアンテナショップとしての認定を受け、現在本場奄美大島紬展を開催中だ。沢山の素晴らしい奄美大島紬の数々と染色家仁平幸春氏の染め帯、染織家西川晴恵氏のアロー、ヘンプといった天然繊維を使った手織りの帯、その他沢山の染織家たちの作品が大島紬にコーディネイトされる形で出品されている。どんな一流の呉服店でもギャラリーでもこの質の高い内容は絶対に見られない。きものファンなら絶対に必見だ。

山本きもの工房の主宰者である山本秀司氏のことは少しきものに詳しい方なら名前だけでも聞いたことがあるだろう。和裁士としては特に著名で、季刊きものでの連載でおなじみである。和裁技術コンクールで男性として初めて内閣総理大臣賞を受賞し、全国各地から山本氏に仕立てに憧れ、依頼が集まる。また和裁教室も大人気で受講生の数はなんと90人以上という。もちろん国家認定の一級和裁士という和裁士の最高峰である。しかもご夫婦揃ってだ。

山本氏の拘りは「着る人のための仕立て」だ。
どんなに腕の良い和裁士でも着る人との接点は寸法でしかない。もちろんその寸法に忠実に仕立てることは当然のことなのだが、山本氏はその寸法から全てを感じ取り、どうすればより着易いのか?どうすればその人の着姿の良さをより引き出すことができるのか?という全ての五感と想像力を働かせ、それを技術に乗せて仕立てていく。それが一流でなく「超一流」である証だ。そんな超一流の技術で本場奄美大島紬を仕立てたら、間違いなく家宝になるだろう。


本場大島紬の魅力は着姿の美しさにある。友禅や泊使いの華やかな美しさとはまた違う「絣」が醸し出す内なる美しさである。独特の光沢と精巧な絣の美しさは普段着でありながら、着る人そのものの美しさを引き出す。華やかな染物は「着飾る」美しさにたいして、紬は「着こなす」美しさである。とりわけ大島紬は群を抜いているといっていい。だから未だに女性の憧れのきものNo.1といわれているのだろう。


その憧れの大島紬を作り出す為には恐ろしく手間のかかる工程ばかりだ。
図案→絣設計図作成→糸の糊付→締め機→絣むしろ→テーチ木染め→泥染→絣摺り込み→機織→組合検査と大まかに書くとこんな感じだが、最低でも18工程くらいある。この中で特徴的なのは「締め機」「泥染」である。

「大島紬は二度織るきもの」といわれている。その理由はあの精巧な絣作りにある。大島紬の精巧な絣は「締め機」という絣作りのためだけに開発された織機を使って絣糸を作り上げる。大島紬の絣糸はその設計図に従って、生糸を綿糸で挟み込むようにして防染することにより作られる。あとで柄となるための小さな点を綿糸で締めることによって作るのだ。その柄となる「点」は総柄となると数十万カ所になる。

綿は水分を含むと締まり、絹糸は膨らむ。この素材特性を利用して防染するのだが、「締め機」によって図案通りのパターンを「絣むしろ」というむしろ状のものにして織り上げるのだ。その絣むしろも経糸絣用と緯糸絣ように分かれるため膨大な時間を費やす。そしてこの機は非常に力が必要なため「男の仕事」なのだ。

この絣むしろを染めていくのだが、これも非常に大変な作業だ。
まずはテーチ木染を下染めとして施す。このテーチ木の染液は奄美大島に自生するテーチ木というバラ科の樹木を20時間前後煮ることで作られる。この染液の成分は強酸性のタンニン酸である。色は茶褐色。この中にある程度の温度を保ちながら絣むしろを入れ、もみ込むように染めていく。そして温度も冷め易いので1度の染めで20回位染液を入れ替えるのだ。

このテーチ木染は容赦なく職人の手を攻撃する。
強酸性のタンニン酸は肌を痛め、ヒドイ手荒れを起こす。人によっては爪に針を刺したような痛みを感じる場合もあるという。手袋をしたいところだが、温度の変化を感じとらなければいけないので、どうしても素手になるのだ。職人にとっては手間に加えて辛い作業となる。

そしてそのあと泥の田んぼに向かい泥染となる。奄美の泥は珊瑚の死骸が堆積したもので粒子の角が丸く糸を傷つけないという利点がある。鹿児島の泥は桜島のガラス質も混じり角があり糸を傷つけてしまうので、本場鹿児島大島紬も泥は奄美の泥をつかう。また泥染めをすることで泥の鉄分とテーチ木染液のタンニン酸が反応し染め定着するのだ。しっかりと染まるまでなんとテーチ木染め20回と泥染め1回のペースを3セットも繰り返ししないとあの色は出ない。気が遠くなるような作業だ。また奄美は猛毒のハブが島民の数の以上に生息している。夜行性のハブは夕方になると出てくる。いまは血清のお陰で命を落とすことは無いが、噛まれたら大変なことになる。

本場大島紬の染めは「痛み」と「危険」に囲まれながら行う大変な作業であることを憶えておいて欲しい。

そして1ヶ月から細かい絣のもので3ヶ月くらいの機織りの期間を経てあの美しい本場大島紬が完成するのだ。

この素晴らしい本場大島紬はフランスのゴブラン織、イランのペルシャ織と並んで世界三大織物と言われている。

ところが今、本場大島紬は過去に無い危機を迎えている。
20年前まではその生産反数25万反あるといわれていたが、年々生産減が続き、それにも増して減反の拍車は止まらず2008年の大島紬生産反数は前年比22%ダウンの1万4144反と遂に1万5000反を割り込んでしまった。

大島紬の生産で生活をしてきた人々は今廃業を余儀なくされている。なぜなら生活をする為には大島紬を織らなくてはいけない。ところが、きもの自体が売れず、大島紬を織っても問屋にせよ、小売にせよ買い手がつかない。
作っても生活出来ない、作らないと生活出来ない。結局どうすることも出来ず、高い技術をもった織娘さんたちや大島紬に関わる職人が廃業していっているのである。このままの状態が続けば本当に幻の織物になりかねない。

消費者にとっては本場大島紬も他のきもの同様、価格の問題もあり確かに簡単に購入出来る金額ではないかもしれない。今多くの呉服店やインターネットショッピング等で価格面の見直しを努力しているもののそれでも気軽ではないかもしれない。ただ、是非とも日本が世界に誇る織物を手にとって触れ、その素晴らしさを再認識して欲しい。

本場大島紬の着姿の美しさ、着こなす楽しさ、いつまでも永く受け継ぐことが出来る耐久性。少しでも多くのきものファンに伝えられたらと感じる。

そして本場奄美大島紬協同組合の公認アンテナショップとなった山本きもの工房でその素晴らしい作品の数々を手にとり、肌で感じることができる。通常の呉服店ではないので本当に気軽に見ることが出来ると思う。


今後、私としてもこの本場大島紬の素晴らしさというものを様々な形でPRしていきたいと思う。他の産地の貴重な紬も同様にだ。
日本の素晴らしい伝統工芸をなくさない為にも注力していく。

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コメント

石崎さんに
発言していただけること感謝しております。。。
これからご指導よろしくお願いしまーす。

投稿: やんまもっと | 2010年3月29日 (月) 20時34分

ちょっと変わった着物屋をやってるものです。
着物人口がもっと増えればと本当に思います。
お勉強になるブログを見つけられて嬉しいです。
これから過去のブログもゆっくり拝見させて頂きます。

投稿: ちぷた | 2010年3月29日 (月) 23時16分

地域の差なのでしょうか、私の地元の和裁学校は生徒さんがどんどん減っています。不況のせいで洗い張りばかりでなかなか新しいものも縫えないようで。着物の文化は残して生きたいんですけどね。

投稿: pink | 2010年3月30日 (火) 09時54分

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