« 今夏ゆかた商戦いかに戦うか? <Part2> | トップページ | 甦らせるぞ!竹筬(たけおさ) »

2010年3月 4日 (木)

本場結城紬のおはなし

紬ファンなら誰もが着てみたいと思う本場結城紬。古い話だが、特にこの名が全国に広まったのはNHK朝の連続テレビ小説「鳩子の海」からだ。結城市が舞台となり結城紬の名は知らない人がいないくらいに有名になった。
また本場結城紬は日本最古の絹織物ともいわれており、そこから生まれた、今では当たり前に使っている言葉が幾つもある。そのようなことも織り交ぜながらこの本場結城紬の魅力や裏話を今日はしていきたい。

1、 本場結城紬の概要
文献では崇徳天皇の時代(西暦1100年頃)平安時代末期には長幡部絁(ながはたべのあしぎぬ)として織り始めていたとあるが、研究者によると聖武天皇の時代には既にあったと言われており、その証拠に正倉院の宝物としてこの「絁(あしぎぬ)」が納められているという。そもそもこの絁(あしぎぬ)とは不揃いの絹糸を平織りで織った粗布であり、朝廷への献上品として織られていたと言う。

結城地方はもともと養蚕が盛んであった。その背景には鬼怒川という大きな川が度々氾濫し、洪水を巻き起こしたため洪水を防ぎ地盤を強固にするために桑の木を沢山植えたのである。これによって洪水が収まったため、
「鬼怒川=絹川」とも呼ばれるようになったと言う。また、この結城紬一反分の糸をとるのに必要な蚕が食べる桑の葉の量分の木が植えてある面積を一反というようになったと言われている。現在の畑の単位である「反」はきものの単位である「反」と関係があるのである。

本場結城紬はもともと無地か縞がほとんどで、今のような亀甲絣が出てきたのは江戸末期から明治初期である。その製法は起源より変わらず昭和31年に3つの技法である糸とり、絣くくり、地機が国指定重要無形文化財に指定された。

2、 本場結城紬の素晴らしさ
本場結城紬の素晴らしさはなんといっても「着心地」である。こればかりは着た人にしかわからない。どう表現するかを悩むが、絹の綿に包まれているような優しさと暖かさだ。この秘密は糸にある。本場結城紬の糸をとる技法は重要無形文化財指定技術に指定されている。湯がいた繭を真綿状にし、ほとんど撚りをかけずに細い糸をとっていく。撚りをかけないと膨らんで糸にならないため唾で仮止めしながら糸にしてあとで強く糊付けをするのである。

昔は結城に嫁に行くと必ず糸をとることを覚えさせられた。糸とりは女性の仕事である。満足に糸がとれるまで数年掛かるので、嫁を励ますために「お前の唾だから良い糸がとれる」と声をかけたという。それが熟女の唾が良いと言われる由縁だ。

強く糊が掛かっている状態で織り上がるので反物では張りがあってパリッとしているが、仕立てる時の湯通しで糊が抜け柔らかくなる。ただし、新品の結城紬はまだ張りがあるので、着るまで布団の下に置き寝押ししたという。そして着ては洗い張りを繰り返すことでだんだんに糊が抜けて、糸が真綿に戻るような手触りになっていく。私も100年前の結城紬を触ったことがあるが、感動するくらい柔らかくて優しい。
自分の一生をかけて洗い張りを繰り返し糊抜きをしながら着るということ自体が結城紬とともに自分も成長していくような何ともいえない嬉しさを感じる。本当に結城紬は正真正銘の憧れのきものである。

また紬であるのに地風が滑らかで紬独特の凹凸感や節目がないのが特徴だ。この秘密も糸とりにある。通常家蚕はきれいな八の字を描きながら絹糸を吐く。そして成虫になる時に自分が出やすいように繭の先端だけは薄くしておく習性があるのだ。この薄い部分は繭を湯がくことで目に見えて解る。そこに指を入れてゆっくり優しく広げて袋真綿にするのだ。だから八の字を崩さず繭に無理の掛からないように糸を紡いでいくのできれいな節目の無い糸になるのである。これが地風の滑らかさの秘密だ。

この滑らかな地風が茶人や文化人にこのまれ、いまでもお茶席の男の正装で一番上等なのは結城紬の無地である。また、昔はお茶の席では今のように垂れもの(染物)は着ず、織物を着たそうだ。お茶席に紬はダメというが、紬がダメな訳ではなく綿から伝わった絣物がダメなのである。
とにかく結城紬は織物の原点であり人間の肌になじむように作られた先人達の優しさと知恵の詰まったまさに夢のような織物なのである。

3、 本場結城紬と結城紬
結城紬はいくつかに分類される。
・糸とり、絣くくり、地機などの重要無形文化財指定技術を使用して織ったもの
・糸は文化財技術でとり、機は高機で織ったもの
・文化財技術は使用せず織ったもの

主に3つに分かれる。正確に言えば糸とりと、地機は文化財技術で絣くくりは糸への直接捺染法で絣をつけたものもある。
素人目には大変複雑で解り難いため、誤解のないようにすべて産地表示にきちんと記してあるので、目に触れる機会があったら是非その辺を細かく確認して欲しい。

当然、価格的にも重要無形文化財指定技術を使用している物はかなりの高額になる。亀甲絣の密度(一般的には80亀甲、100亀甲、120亀甲、160亀甲)によって違ってくる。160亀甲等はほとんど作れないので、一部の呉服店では1000万円近い価格のものもある。一方、文化財指定技術以外の技法で作った物が圧倒的に多いが、これはすこし思い切れば購入することが出来る価格だ。適正価格としては80亀甲で25万円前後、100亀甲で35万円前後といったところだ。

呉服店で結城紬をお勧めされた時は是非上記のことに注意して欲しい。またその違いを説明出来ない呉服店は要注意だ。きちんとした知識を身につけているかどうかのバロメーターとしてチェックして欲しい。
また、呉服店も消費者も最も誤解しやすいのは結城紬自体が文化財に指定されていると勘違いしている点である。あくまで上記に挙げた3つの生産工程が重要無形文化財指定技術であり、その技術によって作られたということである。

重要無形文化財指定技術で作られた本場結城紬もその技術を使用していない結城紬も、日本が誇る結城紬そのものであることには変わりはない。そして自分と一緒に成長し、年を重ねるにつれ共に優しさと味が出てくるこの結城紬にいつかは袖を通して欲しい。


人気ブログランキングへ

|

« 今夏ゆかた商戦いかに戦うか? <Part2> | トップページ | 甦らせるぞ!竹筬(たけおさ) »

ファッション・アクセサリ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1284655/33624068

この記事へのトラックバック一覧です: 本場結城紬のおはなし:

« 今夏ゆかた商戦いかに戦うか? <Part2> | トップページ | 甦らせるぞ!竹筬(たけおさ) »