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2010年4月29日 (木)

そうはいってもフォーマル

先日打合せでとある都心のホテルのロビーラウンジにいった。
日が良かったのか結婚式のために粧し込んだ素敵な女性たちがドレスを身にまとっていた。そうなると仕事柄着物姿を探してしまうのだが、その日は残念ながらたった1人。濃い縹色のシンプルな草花模様の訪問着にこれまたシンプルな糸錦の品のいい袷の帯。振りから見える長襦袢はすこし浅い紺。おそらく30代前後のスラッとした女性。しかもセンスが良かった。

着物の仕事をしているから少し贔屓目に見ているのかもしれないが、どんな高そうで凝ったデザインのドレスでもそれが霞んで見えるほど、美しく見えた。当然男性の私としても目を奪われたことは言うまでもない。

「粧し込む」を辞書で引くと「身なりを飾りたてる。入念におしゃれをする」とある。たしかにフォーマルの席は洋服にしろ着物にしろ、入念におしゃれをする。結婚式やホテル等で行われる会社絡みのレセプションなどに呼ばれるとかなり前から何を着ようか?美容院にいかないと・・となる。そしてクローゼットを物色し、お気に入りの洋服があっても、せっかくだから新調しようか、なんて考えたりもする。

着物を着ようと思っている人は、「せっかくだから新調しようか」などとは思わない。1つでもフォーマルを持っていたら、どの帯を合わせようか?小物はどうしよう?重ね衿は?それとも半襟で飾ろうか?などと組み合せを考える。

洋服にしろ、着物にしろ、フォーマルなお呼ばれは事前にスケジュールがわかっているから、それまでに色々悩む。それが女性にとって楽しいことであり、だからこそ、当日完成度の高い装いを披露してくれる。

着物でのフォーマルは「晴れ着」だ。結婚式なら親族で既婚者だと黒留袖や色留袖を着る場合もあるし、訪問着の場合もある。未婚者であれば振袖もあるかもしれない。晴れ着はマナーとしてのT.P.Oという多少の制約はあるものの、自分がどう楽しんできるかという面ではどんな着物でも変わらないと思っている。ただフォーマルは人からどう見られるかも少しだけ考えた方が良いとは思うが。ただ私は礼法の専門家でもないし、そもそも「こうでなくてはいけない」という発想は好きではないので、その辺については賛否が分かれるのであまり触れないでおく。

私はかつて小売にいた時、お客様にフォーマルとカジュアルの違いを「着飾るもの」と「着こなすもの」と表現していた。フォーマルは不祝儀を抜かせば、やはり華やかな席が多く「自分を着飾る楽しさと美しさ」があると思っている。豪華な華やかさでもいい、シンプルでもいい、粋でもいい、それによって普段じゃないもうひとりの自分を楽しみ、またそれを誰かに見てもらうという、なかなか無い機会だ。いつもと違う自分になるということは女性にとって、そう頻繁にはない特別な時間なのだ。だから「着飾るもの」だと私は思う。

よく「フォーマルの着物は着る機会が無い」と言われる。全くその通りだ。逆にいつもと違う自分を楽しむ時間が頻繁にあってはつまらない。だから、フォーマルは「とっておきの1枚」があれば楽しめるのだ。もちろん余裕があれば色々揃えるのも楽しいかもしれないが、そういう面では洋服を揃える価値観とは違う。また、フォーマルはどうしても値段が高い印象がある。たしかに本当にいい物はそれだけ手が掛かっているからそれなりの値段はする。でもそれが大切なのではない。

自分にとって「いいもの」とは自分が心から気に入っていて、しかもとっておきの時に自分を変身させてくれるものが「いいもの」なのだと私は思う。そこには高い安いという市場の原理は関係ないのだ。

このようにフォーマルにはフォーマルの楽しみがあり、カジュアルにはカジュアルの楽しみがある。どちらが良いかとかどちらが着るかという基準で考えるものではない。着るシーンが違うのだから比較対象ではないのだ。

呉服店の販売員もこういう背景を深く考えながら、接客すべきなのだ。商品紹介のキッカケが「作家物」とか「滅多に見れない」とか「技法がどう」とかそんなことは先に持ってくる話ではない。そんな紹介しか出来ないから、お客様が不審に思ってしまう。フォーマルの着物をお見立てしたり、ご提案したりすることは、そのお客様の大切な人を祝ったり、仕事上大切な役割を果たすときだったりとそう頻繁になく、そして特別な時間のお手伝いをすることと同じなのだ。そういう想いを基本に持てば、接客も変わってくる。それだけフォーマルの着物を提案するということは大変なことなのだ。

私はもう直接お客様に着物をお勧めすることはないが、仕事上、呉服店を指導する時にはいつも店員にいうことがある。

「お客様が着物というものに出会うことによって、今まで知らなかった自分に気付いて頂ける。そうすることで少しでも人生は楽しいと思って頂ける。そんな素晴らしい仕事なんだという誇りをまず持って下さい」

店にとって売ることは重要だ。しかし売るだけになっている心の無いお店に出会ったお客様は不幸だ。そういう呉服店になってはいけないと私は常に思っている。

いまはリアルクローズの着物が元気だ。着物を着る楽しさがどんどん広がりつつある。カジュアルの波がどんどん大きくなってきている。それはとても素晴らしいことだ。もっともっと楽しんで欲しいし、きものファンがもっと増えて欲しい。気軽にそして着こなす楽しさのあるカジュアルを呉服店は適正価格でもっと増やすべきだ。

しかし、あえていう。「そうはいってもフォーマル着物」も素晴らしいのだ。


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コメント

はじめまして。
ただの着物好きです。
大変勉強になって
おもしろく読ませていただきました。
ありがとうございます。
本当に、まっとうなことをおっしゃっているな、
と感じます。
こんな考えの呉服屋さんが増えてくれたら
現代着物を着る(若い?)人も
もっと増えると思いますね。

投稿: みゅんこ | 2010年5月 2日 (日) 22時32分

to みゅんこさま
コメントありがとうございます!
呉服屋で一番大切なのは、思いを伝える販売です。
思いを伝えるためには、お客様に対して敏感でなければいけませんし、
着物とは何か?をキチンと伝えることのできる「心ある技術」です。
そういう呉服屋は今残念ながらかなり少ないですが、私の仕事として
呉服屋を含め、業界全体に伝えていきたいと思っています。

投稿: from 石崎 | 2010年5月 2日 (日) 23時18分

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