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2010年4月 4日 (日)

蚕と絹織物

やっと春が来たようだ。
全国から花見の知らせが聞こえてくる。ただ、いまだ北国からはその知らせは聞こえない。でももうすぐそこまで桜前線は近づいていることだろう。春の息吹が聞こえるのはなんともワクワクする。これはこの世に生きる万物にとって共通する感覚なのであろう。

養蚕の世界でも春は一番質の良い繭がとれる。「春繭」だ。春繭は他の季節にとれる繭より約15%質量が多い。その分上質だと言われている。養蚕や繊維の専門家ならもっと科学的な見地から上質といわれる根拠を説明してもらえるのだろうが、残念ながら私は知っている程度の知識なのでそれは控えることにする。

昔は農家の多くは養蚕業でなくとも屋根裏や保管蔵などで養蚕をしていた。私の父も栃木の養蚕農家の生まれである。
今現在、日本全国で専業の養蚕農家は本当に数えるくらいしかなく、乾繭の生産量も世界シェアの1%も満たないほどの衰退ぶりだ。全国各地にあった製糸工場も基本的には群馬県の碓氷製糸だけとなっている。(小規模の製糸場は存在するが)

着物のビジネスに関わっているが、基本の基本である素材にも常に注意を払っているつもりだ。もちろん着物は絹だけではない。大分類としてだが、麻、綿、樹皮、羊毛、合繊なども当然のごとく意識を持って注目している。ただどうしても圧倒的に数の多い絹物の素材であり、その大元の「蚕」はより深く見てしまうのは致し方ないことだ。

みなさんは、1反のきもの生地に必要な繭の数はご存知だろうか?
これは家蚕の場合の話で、天蚕や野蚕の場合は糸の伸度が異なるのでその数は変わってくるので理解して欲しい。
仮に680gの白生地として、それを構成する為に生糸は約900gが使われている。なぜ680gに減ってしまうのかというと、それは生地を精練することで絹糸についている「セリシン」というタンパク質が取れるからである。白生地は織った後に精練するために、織上がりはこのセリシンによって紙ヤスリのように堅くザラザラしている。これを精練して巾を整え、生地に仕上げていくのだが、このセリシンが落ちることで質量が減る。これを専門用語で「練り減り」という。
そのほか加工段階でのロスも含め900gから680gに減耗する。

この900gの生糸を作るのに必要な繭の量は約2600粒。重さにして約4.9kgだ。そう考えるとかなりの量の繭を使わないと1反分の生地にはならない。そしてその数の繭を算出するのにお蚕さんが約2700頭(幼虫は匹とは言わない)。この約100頭の差は「減蚕歩合」といって途中で死んだり、繭を形成しなかったりなどのロス分が約5%出る。

そしてこのお蚕さん2700頭が繭を形成するまでに餌として必要な桑の葉の数はなんと98kgも必要になる。物凄い量だ。しかしながら、これはたった1反に必要な分である。これを考えるとやはり無駄には出来ないし、何の加工もしていない生地も本当に愛おしく思えてくる。着物を大切にしなくてはいけないという意識はきものファンにとってはごく当たり前のことだが、こうやって遡って考えるとその意識はもっと強くなるはずだ。

蚕の一生は本当に糸を作る為に捧げているのではないかというほど効率的で儚い。
蛾が産卵し10〜15日で孵化しそのあと4回脱皮を繰り返す。これを4眠というが、この期間が約25日。そして2日間糸を吐き続けて繭をつくり、その後2日ほどで蛹になり10日ほどで蛾となる。卵から成虫になるまで2ヶ月弱だ。そして驚くのは生まれたその日中に交尾して夕方には卵を産み始めるというまさに糸を作る為に命を与えられたという一生だだからこそお蚕さんには敬意を表する。

養蚕は中国で紀元前2600年も前から行われていたといわれている。日本に伝えられたのはつい最近の発見で縄文後期と言われている。人間は衣服を作る為に養蚕技術に改良を重ね、お蚕さんの犠牲をもとにより良い製品づくりのために進化してきた。きものはその最たるものだ。


今、東京では桜が満開だ。その美しさを求め、沢山の人達が桜の木を見上げ、花々の美しさに酔いしれる。またそれがほんの一時だということを皆知っている。だからこそ桜は愛おしいのである。儚く散っていく運命を知っているかの如く、満開の花を咲かせることで人々を惹き付ける。

美しい絹糸づくりの為にお蚕さんは、成虫になることを許されずその一生を終える。

美しい絹糸を残してこの世と別れるお蚕さんを考えると春の美しい桜と重なるのである。


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