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2010年5月18日 (火)

輸入に頼る生糸

日本の生糸は多分に漏れず、そのほとんどが輸入に頼っていることはいうまでもない。国産生糸に関してはついにその生産量が未発表となるほど落ち込んでしまった。そして輸入相手国はもちろん中国である。ついでベトナム、ブラジルなどである。日本ではまだまだ絹をありがたがる風潮があるが、残念ながらその有り難いと感じる絹糸は海外のものである。

そう考えると、まだまだ絹素材シェア率の高い「着物」は中国やベトナムやブラジルなくしては語れないという裏事情があり、それを初めて知るきものファンの方々は複雑な思いを抱くのではないかと思う。

日本は高温多湿という養蚕に非常に適した風土であり、かつては上質な生糸を大量に生産してきた。ところが、ライフスタイルの変化による和装の衰退や化合繊の大幅な進化による使用素材の変化が日本の生糸需要の大きな減少を招いた。

昭和51年当時は養蚕農家22万戸あり、製糸工場の数も119件もあったが、昨年の平成21年のデータでは養蚕農家は960戸。製糸工場においては何と2件にまでなってしまった。ということは、養蚕農家が作った繭は、近くに製糸工場がないため、高い配送料をかけて遠くの製糸工場に納めるしかないのである。ちなみに製糸工場が2件といっても、実際にそのほとんどが群馬の碓氷製糸工場である。

この碓氷製糸工場は碓氷、安中地区の養蚕農家約400件が共同で出資している碓氷製糸農業協同組合が運営している。だから、ここの工場長は「組合長」と呼ばれるのだ。

私も何回か勉強のために行っているが、群馬県と長野県の境にある碓氷峠の麓にあり、四方を山に囲まれた自然豊かな場所にある。非常に大きな工場であり、ゆっくりであるが流れ作業のように効率の良いラインで製糸を行っている。やはりそれは日本らしく世界屈指の技術力であり、製糸された糸は本当に上質で美しいものである。


いまでも全国13県から年間繭230トンの繭が運ばれ製糸され、45000kgもの糸がつくられ、そのブランド名も群馬200、新小石丸、あけぼの、群馬黄金といったもので、それぞれの特徴にあった製品に使用されている。しかもそのほとんどが着物以外のものに使われているということであり、これまたなんとも寂しい限りである。

しかももっと寂しいのは、日本の養蚕農家は平均70歳以上が従事しており、後継者もいないことから、あと五年もしたら日本の養蚕は完全になくなり、この碓氷製糸工場も無くなるのではないかといわれている。

そして、ここへ来てその頼みの輸入生糸が大きく値を上げてきている。4年前の2006年も中国の生産量と日本への割当量の大幅減が高騰を招き、呉服業界は大きな影響を受けた。当時裏物担当バイヤーだった私は、会社とも相談し泣く泣く値上げに踏み切った経験がある。今回はそれを彷彿させるどころか、それ以上の上げ巾となっており、流通在庫がまだあるものの、これから作るものに関して値上げは必至と思われる。

また、逆に糸商は稼ぐチャンスでもあり、高値で売るために各方面への供給をストップし、在庫をプールしているという状況であると聞く。これは糸商なりのビジネスであり相場観であるがゆえに、批判するわけにはいかないが、これによって生産者の原料仕入れの資金を圧迫し、悪循環を招く原因となる。

そして、こういうときに一番影響が出るのが、裏地である。裏地はほとんど染めなどの加工がない分、コストコントロールができないため、原料費コストがダイレクトに影響してくるのだ。それによってじわじわと全体のコストを圧迫する。白生地なども同様だ。

こういった例はなにも呉服業界だけではなく、石油製品などではよく見られることだが、なにしろ需要の絶対母数が呉服業界とは雲泥の差である。値上がりしたとはいえども生活必需品であったりすれば、致し方なくても売れる。呉服はそうはいかない。それにただでも市場が冷えきっている中で原料高による値上げは致命的である。

日本独自の文化でありながら、為替や先物取引の影響を受けるという何とも複雑な現状ではあるが、国産生糸には残念ながら未来はないことを考えるとこの状況を受け入れざるを得ない。

島国日本は先進技術の普及も大切だが、せめて伝統技術だけは国レベルでの普及と維持を考えてもらいたいものである。


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コメント

文中の

養蚕農家約400件
製糸工場が2件
製糸工場の数も119件

などとなっていますが、件ではなく軒が正しいと思います。
1か所なら、入力ミスと思いますが、すべての軒数が件に
なっているので、誤解されているかと・・・老婆心ながら

軒数:
http://kotobank.jp/word/%E8%BB%92%E6%95%B0
件数:
http://kotobank.jp/word/%E4%BB%B6%E6%95%B0

投稿: あん | 2010年5月26日 (水) 23時56分

toあん様

コメントでのご指摘ありがとうございます。

何ともお恥ずかしい話で(汗、、、
きちんと日本語勉強致しますです、、、、

投稿: from石崎 | 2010年5月27日 (木) 11時29分

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