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2011年1月

2011年1月 8日 (土)

成人式という間口

今年も成人式がやってくる。
業界的には振袖の購入比率が3割程度まで落ち込み、後の7割がレンタルか親、姉、親戚から借りるなどして用意するというデータが出ているが、メーカーはその動向にヤキモキしている。当然レンタルが増えれば売上は減少し、生産量も減少していく。

肝心の呉服店はレンタルと購入の価格が均衡してきており、粗利益率を確保する為にはレンタルを奨励せざるを得ないという摩訶不思議なビジネスモデルが出来上がっている。

最近急激に力をつけてきているフォトスタジオは、もちろんレンタルが主流であるが、本業である写真をメインに振袖を0円という謳い文句で集客するところまで出てきた。これに対してはいささか不満ではあるが、写真業界からすれば、呉服店が振袖の成約特典として記念写真を何ポーズか無料にするというサービスの逆転発想であるから頭からは否定出来ない。

新しいところではブライダル関連企業が振袖までに進出してきており、レンタルや購入の成約特典として、いままでの着付け、ヘアメイク、記念写真のみならず、将来の結婚式やブライダル商品の特別価格の約束まで特典としてし、じわじわと売上を増やしてきている。

今や成人式の振袖ビジネスは完全にセレモニービジネスとして確立し、呉服屋が振袖の色柄や品質だけでは勝負出来ないものになってきたことは、きものビジネスに関わるものとしてはなにか寂しい限りだ。しかしながらこれも時代の流れという他に言葉が見当たらない。

さて成人式は日本古来からある通過儀礼として根付いてきたことはいうまでもない。男性で言えば「元服」、女性であれば「裳着」という儀礼が今日の成人式に変化してきた。また現代の成人式が広まったのは、埼玉県蕨市の青年団が若者への激励の為に1946年11月に「青年祭」を開催したのがルーツであると言われている。それが2年後の1948年1月15日に成人の日として正式に祝日として制定された。その後ハッピーマンデー法に伴い1998年に1月10日に移行したが、成人式自体は各自治体によって必ずしもその日に行う訳ではない。

振袖着用が普及してきたのも意外にも最近である。記録が確かであるならば、1960年代に未婚女性の盛装であった振袖が成人の日に着られるようなったとのことであるが、これはバレンタインデー同様、呉服業界が高度成長期のフォーマルきものビジネスの1つとして仕掛け、一般化していったと思われる。

その成人式ビジネスも上記のように多様化してきており、これからも変化し続けるということは言うまでもないだろう。

さて、その成人式であるがその着用に関わる呉服店、フォトスタジオ、美容室、着付け学院などの企業は毎年早朝からその対応に追われる。私もチェーン店時代は自店での着付けや提携美容室廻りなどで成人式当日朝の2〜3時頃から駆けずり回った記憶がある。

それはまるで戦争のようだ。様々な流れはあるにしろ、成人式を迎えるお嬢さんとその母親(或は父親)は早朝からヘアメイクまたは着付けをしていく。そのために美容室も着付師も何人もの成人するお嬢さん方をこなしていく。成人式に関わる全ての人達が全身全霊を傾け、お客樣方の一生にたった一度しかない晴れの日の為に努力をする。

また当日は慣れないきものを着る為に様々なトラブルが発生する。

前日までに確認したはずの物がない。一番多いのは和装小物だ。やれ腰紐が足りない、伊達締めがない、コーリンベルトがないなどなどは当たり前のように起きる。確認したはずなのにだ。

またもっと凄いのは、帯がない、長襦袢がないなどの信じられないようなことも起きる。この原因としてよくあるパターンが、シワを最小限に無くす為に、少なくとも着付け会場や美容室などにあらかじめハンガーに吊るしておくのだが、特に長襦袢などは似たような物が多く、誤って他のお客様のものと混在させてしまうなどのトラブルが起きる。また着る段階になって解れが見つかったり、まれにお母さんやお祖母様の着物を着る場合に帯の長さが足りない(現在は大体1丈1尺〜1丈1尺5寸だがその昔は1丈または9尺5寸〜9尺8寸のものが多かった)などのトラブルもよくありがちだ。

もちろん私たちは慣れているとはいえ、やはりその場になると多少は青くなることもある。まさに成人式当日は戦場だ。

ただ、これらも呉服店にしてみればご成約頂いたお客様への精一杯の感謝のサービスでもあり、美容室にしてみればほとんどが新規客になる為気に入って頂ければ新たな顧客となる可能性も秘めているから真剣である。もちろん呉服店にとっても成人式の着物の印象が良ければ良いほど、その後顧客へと発展することを期待するし、それ以前に着物というものの良さを体感してもらう最高の場でもある。また、その店の対応次第で評判が広がり次の成人対象客への有効なPRにもなるからこれまた手を抜けない。

つまりは呉服や美容業界、写真館業界などにとっては数少ない顧客にランクアップする為の大きな間口なのだ。だからこそこの成人式という経験消費は次回売上に繋がる大きなチャンスであるということをもっと認識すべきである。

それから成人式当日はその店に大きなダメージを与える危険性を秘めていることも認識すべきである。
それは日常では想像もつかないほどの大きなクレームだ。

成人式のクレームは一生に一度しかない晴れの日に起こるので取り返しがつかないことが多い。普段は小さなクレームで処理されてしまうことでさえもこの日に限っては大きなクレームになるのだ。これには絶対に気をつけて欲しい。

私の経験からクレームに多い事例を挙げると「着付けが悪い」「帯結びが好みではない」「帯がほどけた」「ヘアメイクが気に入らない」などだ。しかし、面白いことにこれらのクレームは殆どお嬢様本人よりも保護者からの物が多いのだ。なぜならヘアメイクは別としても、着付けや帯結びは着物経験のあまりないお嬢様本人にはわからないからだ。

他の業界には極めて少ないケースだが、端から見て明らかに崩れている着付けでも本人はこんなものだと思ってしまう、またはそれが崩れているかどうかもわからない場合が多いのである。悲しいことだが事実だ。これに関しては私たちサービスする側が細心の注意を払わなければいけないことである。

しかしながら、それ以上に大きなクレームになる事例がある。実はこれが一番多く、二度とその店を利用しないか、金輪際着物を着たくないと思ってしまうクレームがある。それは

「心ない言動」である。

「ぽっちゃりしてるから着物には一番いい体系ね」
「今日は本当に忙しい。あなたで8人目よ!」
「多少苦しいのは着慣れないから。それはみんな一緒だから我慢してね」
「動くと崩れるからじっとしててくれる?」

これらは過去に大きな苦情になった着付け時の言動だ。もちろん着付師の方々も一所懸命やっているし、悪気はまったくない。
ただし、これらの言動に共通することは敬語がないこと、命令調であること、言われると不快に思われることである。
そして厄介なのはあまり考えずに発した言葉である為、後に注意しても本人は言った記憶がないことである。

しかしながら1つだけ強く言いたいのは、着物が初めての人であろうが、自分の娘ぐらいの人であろうが、店にとっても、着付けする人にとっても、ヘアメイクする人にとっても「大切なお客様」であるという意識が必要だ。

してあげる」という意識を「させていただく」という意識に変えなければ、本当の接客やサービスはできない。ましてやこちらの思いは伝わらない。

私は小売店に対していつも成人式は事前にこういったミーティングを成人式当日に関わる人や提携者としっかりとするべきだと指導している。今年の成人式も各クライアント先には資料を作成して説明会や打ち合わせをしている。もちろん100%防げている訳ではないが、大切なお客様の記念日を最高な1日にできるよう最善を尽くしている。

成人式は呉服業界にとって、着物を通して人生の節目となる大切な記念日を演出し、着物っていいなとこれからの若い女性(男性もだが)に気づいて頂ける最高の間口であるということをもっともっと認識すべきであると強く言いたい。
またお嬢様の成長を祝い、家族全員が絆を深める家族の記念日のお手伝いが出来る素晴らしい仕事であることも改めて意識して欲しい。

そしてきものビジネスは成人式だけでなく、お客様に着物を通して新しい自分を発見してもらい、人生は楽しいと思って頂くという日本特有の素晴らしいものであるということをもう一度思い出して欲しい。


最後に今年成人の日を迎えられる全ての方々、ご成人おめでとうございます。
心からお祝い申し上げます。

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