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2012年10月

2012年10月19日 (金)

呉服業界における「知らしめるための投資」の有効性

10月も半ばを過ぎ、中秋から晩秋へと向かう狭間に差し掛かっている。とはいえ、前回のブログでも記したとおり、気温の下がり方は鈍く、日中はまだまだ暖かさを通り越して暑いと感じる日も多い。

さて、秋は着物においてもイベントが目白押しである。先日行われた日本橋着物サローネも大盛況であったようである。私は仕事でスケジュールが合わず残念ながら行けなかったが、盛会はなによりである。また、11月初旬には第二回を迎える着物カーニバルが名古屋の吹上ホールで開催される。今回は初回であった前回から大きくスケールアップして22社の参加企業が集まる。またその特徴としては小売から産地まであらゆるカテゴリが直接着物ユーザーと交流を持てることにある。もちろん販売もしているが、その目的は着物を着る楽しさをユーザー同士、あるいは呉服業界とユーザーの交流を通してより感じてもらおうというもであり、一般的に小売店が開催する「売り出し」や「催事」とコンセプトが全く異なる。私も主催者の依頼もあり、初日の11月3日(土)のみだがお手伝いさせて頂くことになっている。

一方で、呉服関連業者の中にはこういったイベントの趣旨や参加について首を傾げる企業が多くある。その多くは「売れるのか?」「採算は採れるのか?」という商売ベースの捉え方である。確かに参加するには参加料や出店料といったものはかかることもあるだろう。または会場まで行く交通費や宿泊費、商品の運搬費などの経費も当然掛かってくる。企業は経費対効果を考える以上は当然の発想である。経費をかけるだけのメリットがあるかどうか?をすぐに考えるのは自然なことである。

ただここでひとつ考え方として持って欲しいのは、「すぐには見えない効果」である。

着物という商材の価値基準は消費者にとって非常にわかりづらいものであり、例えば、同じ商品でも「オープン価格」が多いため、同等の商品でも流通経路や小売店の価格決定基準によって売価は異なってくる。それはコスト積み上げ方式の売価決定であったり、自店のお客様に合わせたプライスラインを基本としていたりとまちまちであり、それが正しいか否かは問えるものではない。それゆえに呉服関連業者は消費者への消費価値の創造をするのは非常に難しい状況になっているのも事実である。

しかしながら呉服関連業者のどの段階においても、その企業自体を消費者に知ってもらう事は大いにプラスであると言える。着物ユーザーという消費者の認知度が高い業者は自然と信頼という土台が築きやすい。もちろん根本的にその業者の商品に対してのこだわりや、扱い商品の差別化、その企業自体の拘りが出来ている場合はより信頼度が増し、認知度も上がるだろう。今、SNS(ソーシャルネットワークサービス)の大々的な普及によって個人のみならず企業などとダイレクトにコミニュケーションが堂々と図れる時代になった。これはもちろん良い面と悪い面が出ていることは周知のことであるが、少なくとも着物ユーザーは今まで小売店で商品の良さやその説明を知らされてきたのが、SNSによって、その製造元から直接話を聞いたり、情報を得られたりすることが出来るようになってきた。

言うなれば小売店だけでなく、問屋やメーカー、そして産地や悉皆、和裁業までが自らの存在感をユーザーに直接的に知らしめる場が出来たのである。
そしてそれは、今後ユーザーが「知っている」または「知らない」というレベルで商品やその企業に対して付加価値を見出す要素の1つになるかもしれない。

そしてもっと言うならば、これは一種のブランディングになるかもしれない。

ブランドの定義としては下記のことが挙げられる。

  1. 企業が自社の商品が他社のものに対して優位で意味のある差異をブランド要素によって消費者が認識できるように明示したもの
  2. 企業が、消費者に対する約束を明確化したもの
  3. 消費者にとって、他の商品・サービスとの差異を明確に認識するもの
  4. 消費者が商品・サービスに対する期待を託すもの
  5. 消費者の価値観、こだわり、ライフスタイル、アイデンティティを表現するアイテム
  6. 企業が自らのアイデンティティを表現したもの

これらのことを総合的に考えると、すべての企業が個々に自社の良さや商品の良さ、特徴、差別化出来る部分を直接ユーザーに対して発信出来るのであるならば、それがすぐに「売り買い」に結び付かなくとも、徐々に徐々に「見えない効果」によってユーザー認知度が深まるならば、ここに多少の経費を投資することは将来投資としては非常に有効であると少なくとも私は思う。

これは各産地組合等のイベントにも同様の考え方が成り立つと思っている。何故ならば、ほとんどの産地組合主催のイベントはある意味「業者との商談確保が主体的な目的」が土台となっている傾向が強いからだ。仕組みとしては「メーカーの商品アピール=売り先へのアピール」になるため、消費者へのPRは二次的なものになることで「内輪イベント」としての性格が強くなる。そうなってしまうとプレゼンテーションが弱くなり、結果的に業者へのイベント認知度も低くなってしまうことになる。実に勿体ない話である。

もちろん全ての産地組合主催イベントがそうであるとは言わない。純粋に消費者向けの工夫を凝らし、少しでもその産地の商品を楽しみながら知ってもらおうと努力している産地も組合も沢山あることは間違いない。とはいえ、まだまだ「内輪イベント」になってしまっているものが多いことも事実である。

私の考え方の1つとして「消費者の興味は企業の興味につながる」というものがある。よく考えれば当たり前の論理なのだが、それがこの業界にはあまり理解されていないように感じる。「売り方、やり方」で生きて来た呉服業界は消費者の興味というソフト面よりも売り方、やり方というハード面に重視し過ぎているからだと思う。だから外部から見ると魅力に欠けてしまうのである。

だからこそ私の意見としては消費者に魅力があり行きたいと思わせるイベントとして組み立て、業者に対しての商談スペースもしっかりと設けるというスタンスがそのイベント自体の認知度と産地の認知度、そしてその中で出品するメーカーのユーザー認知度と業者認知度をよりアップさせられるのではないかと思っている。これも前述した「すぐには見えない効果」に繋がっていくと私自身は確信する。

ここまで情報があからさまになっているのであれば、各企業ができる限りのモノ作りや経営努力は常に最高の努力を続けながらも、それを多くの人に知ってもらうための投資も必要であると強く感じる。もちろん何もイベント参加だけが知らしめる投資ではないし大金を使うことが有効な投資ではない。その事業者がおかれている状況や環境に応じて今ではいくらでも「知らしめるための投資」の手段は存在する。経費予算が100円でも経費対効果が高い場合もあれば、100万使っても全く効果が得られないこともあるのだ。

「すぐ売れる、すぐ儲かる」ための投資だけでなく、これからは「すぐには見えない効果の獲得」のためにも「知らしめるための投資」を呉服業界はより積極的に考えるべきだと私は思う。

「信頼と認知は一日にしてならず」

ならば今から準備するか否かが将来を決めることになるかもしれない。

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2012年10月 8日 (月)

呉服屋は呉服屋の思いを語れ

早いもので今年もあと3ヶ月足らずとなった。10月とはいえ、いまだに残暑を引きずっているかのような陽気に冬物の出だしも足踏み状態であろう。

呉服店は袷の季節となって様々な催事をしたり、振袖にも力を入れ直す時期にもなってくる。また、年明けの成人式への準備もそろそろ気になってくる頃である。

ところで成人式といえば、そう歴史の古いものではないことは想像がつくかもしれない。調べてみると終戦間もない昭和21年に当時の埼玉県北足立郡蕨町、現在の埼玉県蕨市で「青年祭」をはじめたことがルーツとなったそうだ。この年の1年前までは第二次世界大戦中であり、この戦争によって人口が一気に減る原因となった。そのなかでも10代後半〜20代の若者の戦死者は想像もつかないほど多かったそうである。

青年祭はそういった状況の中で成人を迎える若者に少しでも勇気を与え、新しい日本を作る礎になって欲しいという願いから始まったものと聞いている。そしてそれが、だんだんと各地に広がっていき、後に「成人の日」として国民の祝日に制定された。

だからこそ成人の日に振袖を着る風習は、ごく最近であることが分かる。基本的には呉服業界が仕掛けたといっても過言ではないが、未婚者の正装である振袖を成人の日という晴れの日の正装として着用し、新たなる門出を祝うという面では決して間違った仕掛けではなかったと私個人はそう思っている。

ただ最近は少し、というかかなりそれが違う方向へと流れてしまっていることは皆さんも感じられているだろう。今や振袖は呉服店にとって重要な商材であり、それをうたっている業種も呉服店のみならず、フォトスタジオ、互助会、ブライダルまでもが参入している他業種が入り交じった市場となっている。

 

またそのサービス合戦も熾烈で、成人式当日のヘアメイク、着付や前撮り写真のサービス、卒業式の袴貸し出し無料、etc… と集客のために大きな経費をかけてのサービス競争になっている。

 

また消費動向も変わってきて、今や6割から7割近くがレンタルという状況に様変わりしてきた。これは価格も然ることながら、振袖が成人式の制服的に捉えられてしまってきたことから、商売のスタイルまでもがそれに合わせて変わってきてしまった。背に腹は代えられない状況の呉服店にとって本心は購入して欲しいと思いながらも、レンタルでもなんとか振袖売上げを確保したいという状況になって知っている。

 

そもそも振袖の販促スタイルはカタログなどの媒体戦略が中心である。新作振袖が出ると「ブック」と言われるカタログを各問屋やあるいは全国の小売店が共同で運営しているグループなどが作成し、それに載っている全柄のうち半分とか7割とか、あるいは下代のいくら以上などの仕入れ条件でそのカタログの使用条件を持ち、それを中心に振袖対象顧客に対して発信していく。その際、販促物の発送、電話でのPR、宅訪などの方法を使って集客やPR営業をすることが一般的である。

 

ただこの営業戦略も、衰退期に入っていると感じている。またそのやり方は「常に名簿情報ありき」の考え方であり、もし名簿情報がほとんど入手出来なくなったら?ということを本気で考えている所はまだかなり少ない。いわゆる未来への準備を怠っているか無関心なのかは定かではないがいずれにしても段々と経費対効果は低下していくことになっていくであろう。そしてかなり近い将来、そのやり方は通用しなくなるだろう。

とはいえ、振袖市場は約1000億円強と言われており、この市場が更に縮小を加速することは呉服店のみならず、国内外の仕立てなどを含め呉服流通自体が更なる縮小を強いられることになる。これは絶対に望ましくない。

 

しかしながら一方で消費者動向も、振袖は購入よりもレンタルが大きく上回っているという状況である。これに関しては国内の個人所得額の低下やバブル後世代の消費に対する消極的な姿勢、着物そのものに対しての意識等、様々な社会背景は確かに大きく影響している。

 

ただあまりにも呉服屋が呉服屋としての振袖への捉え方をしていないように思えてならない。

 

レンタル志向の消費者から出る言葉の多くは「成人式1回しか着ないものに何十万もかけて持つのはもったいない。だから振袖は着るにしてもレンタルで充分」である。

それに対して多くの呉服屋はどう言うか?

「そんなことないですよ。これからお友達の結婚式も出てくるし、卒業式の袴に合わせて着ることもできますから、本当に好きな振袖を選ぶと意外に着てもらえますよ」

 正直、こんな提案しか出来なくなった呉服屋は、この時代に永遠に振袖をお買い求め頂く人を増やすことは出来ないだろう。

 

呉服屋はあくまで呉服屋であって写真屋でも貸衣装屋でもない。もちろん、お客様がレンタルを選択する理由は経済的な部分が強いかもしれない。または母親の思いのこもった振袖を娘に着せたいなどもあるし、決して「レンタルが悪」なのではない。レンタル振袖だってそれぞれのお嬢様の夢や希望を叶えることが出来る。ただ、あくまで呉服屋は呉服屋なのだ。貸衣装屋には出来ない「振袖を持つ意味や良さや思い」を伝えることの出来る場所であるはずだ。

 

私も多くの小売店のお手伝いをしているが、御陰さまで振袖が好調なお店が多い。ただ残念ながら必ずしも購入率が高いわけではない。ただ1つだけ拘って伝え続けていることがある。

 

振袖のお客様には是非ともこれを伝えて欲しい。

「私達はお嬢様の成人のお祝いの振袖のお見立てという一生に一度に関わるお手伝いをさせていただく仕事です。もちろんご購入されたり、レンタルだったり、お母様やお姉様のお振袖をご用意するなどお客様のご都合に合わせています。ただ、呉服屋としての気持ちは、お振袖は成人式の制服ではありませんから、着ようと思えばまだまだ何度でも着れます。ただやはり着る目的は成人式ということが第一になるでしょう。ただ成人式は一生に一度で、記念写真は一生残ります。そのお嬢様の姿にご家族やご親戚は心から喜ぶでしょうし、一生残る記念写真はお嬢様自身がこれから先何年経っても何度も繰り返し振り返られる大切なものになるでしょう。その時にその想い出や写真に残したご自分の姿と振袖は出来れば一緒に残して欲しいなと思うのです。もちろん、ずっとタンスに仕舞いっぱなしになるかもしれませんし、着るチャンスは少ないかもしれませんが、それでも一生残しておいて欲しいなと思います。これが呉服屋の願いなんです」

 

呉服屋は商売に「思い」を乗せなければいけない商売である。そして当たり前だが呉服屋は着物を売るお店である。その原点を忘れてはいけないと感じる。

だから振袖はもちろんのこと、どんな着物でも「呉服屋は呉服屋の思いを語れ」と声を大にしていいたい。

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