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2012年10月 8日 (月)

呉服屋は呉服屋の思いを語れ

早いもので今年もあと3ヶ月足らずとなった。10月とはいえ、いまだに残暑を引きずっているかのような陽気に冬物の出だしも足踏み状態であろう。

呉服店は袷の季節となって様々な催事をしたり、振袖にも力を入れ直す時期にもなってくる。また、年明けの成人式への準備もそろそろ気になってくる頃である。

ところで成人式といえば、そう歴史の古いものではないことは想像がつくかもしれない。調べてみると終戦間もない昭和21年に当時の埼玉県北足立郡蕨町、現在の埼玉県蕨市で「青年祭」をはじめたことがルーツとなったそうだ。この年の1年前までは第二次世界大戦中であり、この戦争によって人口が一気に減る原因となった。そのなかでも10代後半〜20代の若者の戦死者は想像もつかないほど多かったそうである。

青年祭はそういった状況の中で成人を迎える若者に少しでも勇気を与え、新しい日本を作る礎になって欲しいという願いから始まったものと聞いている。そしてそれが、だんだんと各地に広がっていき、後に「成人の日」として国民の祝日に制定された。

だからこそ成人の日に振袖を着る風習は、ごく最近であることが分かる。基本的には呉服業界が仕掛けたといっても過言ではないが、未婚者の正装である振袖を成人の日という晴れの日の正装として着用し、新たなる門出を祝うという面では決して間違った仕掛けではなかったと私個人はそう思っている。

ただ最近は少し、というかかなりそれが違う方向へと流れてしまっていることは皆さんも感じられているだろう。今や振袖は呉服店にとって重要な商材であり、それをうたっている業種も呉服店のみならず、フォトスタジオ、互助会、ブライダルまでもが参入している他業種が入り交じった市場となっている。

 

またそのサービス合戦も熾烈で、成人式当日のヘアメイク、着付や前撮り写真のサービス、卒業式の袴貸し出し無料、etc… と集客のために大きな経費をかけてのサービス競争になっている。

 

また消費動向も変わってきて、今や6割から7割近くがレンタルという状況に様変わりしてきた。これは価格も然ることながら、振袖が成人式の制服的に捉えられてしまってきたことから、商売のスタイルまでもがそれに合わせて変わってきてしまった。背に腹は代えられない状況の呉服店にとって本心は購入して欲しいと思いながらも、レンタルでもなんとか振袖売上げを確保したいという状況になって知っている。

 

そもそも振袖の販促スタイルはカタログなどの媒体戦略が中心である。新作振袖が出ると「ブック」と言われるカタログを各問屋やあるいは全国の小売店が共同で運営しているグループなどが作成し、それに載っている全柄のうち半分とか7割とか、あるいは下代のいくら以上などの仕入れ条件でそのカタログの使用条件を持ち、それを中心に振袖対象顧客に対して発信していく。その際、販促物の発送、電話でのPR、宅訪などの方法を使って集客やPR営業をすることが一般的である。

 

ただこの営業戦略も、衰退期に入っていると感じている。またそのやり方は「常に名簿情報ありき」の考え方であり、もし名簿情報がほとんど入手出来なくなったら?ということを本気で考えている所はまだかなり少ない。いわゆる未来への準備を怠っているか無関心なのかは定かではないがいずれにしても段々と経費対効果は低下していくことになっていくであろう。そしてかなり近い将来、そのやり方は通用しなくなるだろう。

とはいえ、振袖市場は約1000億円強と言われており、この市場が更に縮小を加速することは呉服店のみならず、国内外の仕立てなどを含め呉服流通自体が更なる縮小を強いられることになる。これは絶対に望ましくない。

 

しかしながら一方で消費者動向も、振袖は購入よりもレンタルが大きく上回っているという状況である。これに関しては国内の個人所得額の低下やバブル後世代の消費に対する消極的な姿勢、着物そのものに対しての意識等、様々な社会背景は確かに大きく影響している。

 

ただあまりにも呉服屋が呉服屋としての振袖への捉え方をしていないように思えてならない。

 

レンタル志向の消費者から出る言葉の多くは「成人式1回しか着ないものに何十万もかけて持つのはもったいない。だから振袖は着るにしてもレンタルで充分」である。

それに対して多くの呉服屋はどう言うか?

「そんなことないですよ。これからお友達の結婚式も出てくるし、卒業式の袴に合わせて着ることもできますから、本当に好きな振袖を選ぶと意外に着てもらえますよ」

 正直、こんな提案しか出来なくなった呉服屋は、この時代に永遠に振袖をお買い求め頂く人を増やすことは出来ないだろう。

 

呉服屋はあくまで呉服屋であって写真屋でも貸衣装屋でもない。もちろん、お客様がレンタルを選択する理由は経済的な部分が強いかもしれない。または母親の思いのこもった振袖を娘に着せたいなどもあるし、決して「レンタルが悪」なのではない。レンタル振袖だってそれぞれのお嬢様の夢や希望を叶えることが出来る。ただ、あくまで呉服屋は呉服屋なのだ。貸衣装屋には出来ない「振袖を持つ意味や良さや思い」を伝えることの出来る場所であるはずだ。

 

私も多くの小売店のお手伝いをしているが、御陰さまで振袖が好調なお店が多い。ただ残念ながら必ずしも購入率が高いわけではない。ただ1つだけ拘って伝え続けていることがある。

 

振袖のお客様には是非ともこれを伝えて欲しい。

「私達はお嬢様の成人のお祝いの振袖のお見立てという一生に一度に関わるお手伝いをさせていただく仕事です。もちろんご購入されたり、レンタルだったり、お母様やお姉様のお振袖をご用意するなどお客様のご都合に合わせています。ただ、呉服屋としての気持ちは、お振袖は成人式の制服ではありませんから、着ようと思えばまだまだ何度でも着れます。ただやはり着る目的は成人式ということが第一になるでしょう。ただ成人式は一生に一度で、記念写真は一生残ります。そのお嬢様の姿にご家族やご親戚は心から喜ぶでしょうし、一生残る記念写真はお嬢様自身がこれから先何年経っても何度も繰り返し振り返られる大切なものになるでしょう。その時にその想い出や写真に残したご自分の姿と振袖は出来れば一緒に残して欲しいなと思うのです。もちろん、ずっとタンスに仕舞いっぱなしになるかもしれませんし、着るチャンスは少ないかもしれませんが、それでも一生残しておいて欲しいなと思います。これが呉服屋の願いなんです」

 

呉服屋は商売に「思い」を乗せなければいけない商売である。そして当たり前だが呉服屋は着物を売るお店である。その原点を忘れてはいけないと感じる。

だから振袖はもちろんのこと、どんな着物でも「呉服屋は呉服屋の思いを語れ」と声を大にしていいたい。

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コメント

呉服屋は呉服屋の思いを語れ

お客様に説得力のあるとてもすばらしいお言葉ですね。

投稿: 呉服のサナダ | 2013年3月17日 (日) 18時39分

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