経済と観光と文化と
いつも呉服業界若手経営者の会の前は様々な観点から考える。経済は一人当たりの生産性×人口だから、人口がシュリンクしていくと経済もいずれ低迷すると単純には考えることができるが、果たして日本経済は将来性がないのかというと疑問である。
日本の一人当たり実質GDPは約4万ドル、アメリカは緩やかに伸びていて5万ドル、シンガポールは7万ドルと10年前の1.5倍、スイスに至っては約8万ドルだ。もちろん全てを端的に一色単に比較することは意味のないことだが、推移を見てみると日本は1990年からほとんど横ばいであり、10年前から見ればほぼ同じだ。よく失われた20年と言われるがこういうことなのかと改めてその言葉が理解できる。
もし、日本の一人当たりの実質GDPがシンガポール並みの7万ドルになったのならば、現在の1.7倍にもなるわけで、いくら人口が減少することが避けられないといえども7割減ることは考えにくいから、生産性×人口に当てはめれば、人口は減っても経済は発展できるということになる。
さらに深く掘り下げてみると日本のGDPの7割がサービス業だ。日本は製造業のイメージがあるが、現代の第3次産業は日本経済の要となっている。そのサービス業の要であり大きなウエイトを占めているのが医療福祉と観光である。おそらくこの医療福祉と観光が大きく伸びることによって日本の一人当たりのGDPが伸びるというのはこの流れからして察しがつくが、この生産性が向上していない。ちなみに調べてみると製造業の生産性はかなり良い。逆にいえばこれ以上の伸び代は少ないとも言える。
一方医療福祉と観光の生産性はまだまだ伸び代があるということだ。特に観光は2006年当時30兆円あったが、10年経った現在は24兆円まで落ちている。外国人観光客は日本政府観光局のデータよると2016年は2400万人を超えて過去最高を記録しているが、その経済効果は4兆円程度。ということは日本人自体がいかに観光しなくなったかということが言える。
それに関しては色々と要因があるのだと思うが、今問題になっている宿泊施設数を含め交通インフラなど様々な観光インフラの整備が遅れているか、あるいは整っていないのではないかと思われる。
観光関連の雇用体系は約7割が非正規雇用のようなので、サービスが存在してもその質が向上していないことも日本人の観光が低迷している実質的な要因でもあるのかもしれない。
医療福祉はよくわからないのでそれについては日本医療開発機構の理事長をしている従兄弟に聞いてみることにして、観光の生産性が向上するためには個人的には「文化」がその大きな武器として威力を発揮できるのではないかと感じている。
その中でも日本の伝統工芸はそこ知れぬ魅力と力を持っているはずである。だがそれをきちんと伝達できる形を国を含め、各地方自治体も作れていないのが現実だ。
そしてそもそも日本の各地方自治体が足元の観光資源に気づいていないというのも大きな要因であるかも知れない。
例えば文化財。各都道府県や市町村が指定している文化財は全部で110089件あり、さらに文化庁が指定する有形、無形、名勝地などの文化財は4294件もある。日本全国の都道府県や市町村でその数の多少はあれど、全てにおいては少なからずそういった観光資源は存在するはずだ。
また経済産業省が指定する伝統的工芸品においては、ほぼ全ての都道府県に存在し、その数は現在222件に登る。
私が住んでいる京都は確かに世界に誇る観光地であり、登録文化財数も群を抜いているが、伝統的工芸品の件数は東京や新潟とほぼ同数である。では何が違うかというと、行政が積極的に観光産業に力を入れており、特に伝統工芸や日本文化の振興においては「伝統産業活性化推進計画」という「京もの」と言われる伝統工芸品をいかに国内外に発信するか?また次世代の担い手をいかに育成していくか?観光産業とのマッチングをどうすべきかなどを積極的に取り組む仕組みが存在する。
私がライフワークとしている呉服の世界も観光とのマッチングは非常に有効な手段の1つであり、外国人を含むより多くの人に「日本の着物」を知ってもらう大きな武器でもある。
アウトバウンドとインバウンドの両輪が大きく回ることで日本人自体が自国の文化資源に気づくという「リバウンド」がこれからの呉服業界の活性化に絶対的に必要である考えている。
観光の活性化がサービス業の生産性を押し上げ、日本の一人当たりのGDPを向上させ、避けられない人口減の中でも経済の安定や向上をなすことができる。そういう意味でも私たちが世界に誇れる大きな武器である文化、そして伝統工芸をどうにかしてより顕在化させていきたい。
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