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2017年11月16日 (木)

和装振興協議会公表資料から思うこと

経済産業省の会議体となっている和装振興協議会の議事録および資料等が同省HPにて公表された。

現在この協議会で注力されているのが「商慣行の是正」であり、ある一定の方向性が出された時点で、各業界団体に賛否を問うアンケートを行ったところ、多くの川上、川中の業界団体が賛同する形となったが、唯一川下の最大の小売団体である日本きもの連盟が「一部賛同」というスタンスを取ってきたようだ。またその理由も文面にて公表されていたので熟読したがどうも腑に落ちない部分が多く私のなりの疑問をブログに書いてみようと思った。

今回の私見を述べる前に経産省の和装振興協議会とその会議の中で出された「和装の持続的発展のための商慣行のあり方について」の概要を簡単に説明したいと思う。 まず和装振興協議会は、前身の和装振興研究会から始まり、私自身もその研究会の委員であったが、研究会は業界の若手中心の川上、川中、川上の業者の他、経済学者、和装教育関連、プロデューサー、消費者代表などで構成されたものであった。そこからより省内での位置付けを明確にし、継続的に和装振興に関して議論し、改善及び発展していく目的と実行のために、各段階での業界団体の代表レベルで構成された会議体として和装振興協議会が発足された。またその下部組織として分科会も発足されより現場に近い人たちの意見を吸い上げたのち、今後の和装振興において必要且つ現実的な流れを作っていけるような形を作った。

その中で、今まで再三問題視されてきた商慣行のあり方について、初めてメスを入れる形となった。特に呉服業界の流通は多段階流通であり、長い歴史の中で慣習化されてきただけに、今まで幾度となく問題視されてきたが、それぞれの段階の事情(いわゆる商売上の大人の事情)によって異なる立場の団体の代表レベルが議論する場がなかっただけに非常に良い機会だと個人的には考えている。

本年の5月に出された商慣行のあり方についてまとめたものを見ると

①「サプライチェーン全体での付加価値の向上」 ②「取引対価の決定」 ③「取引の書面化」 ④「代金の支払」 ⑤「歩引き取引・延べ払いの廃止」 ⑥「不当なコスト負担」 ⑦「販売方式の決定」 ⑧「消費者本位の商品・サービスの提供」 ⑨「消費者にふさわしい商品の販売」 ⑩「消費者にわかりやすい説明」 11「産地等の明瞭な表示」 12「価格の適切な表示」 13「適切な販売手法」 と言った内容で、ある意味下請法と景品表示法、消費者契約法全般の法律の中で呉服業界の商慣行是正に必要なものをチョイスしてまとめたものといえばわかりやすいかもしれない。

ただし、②から⑥は下請法にて既に法的に定められてはいるものの、下請法の構成要件である、親会社と子会社の資本関係、製造委託、修理委託、情報成果物、役務提供等の取引に限られており、現在の呉服業界の多くの取引形態では下請法の構成要件としては成立しにくい事もあり、改めて業界全体でのコンプライアンスの方向性を定めていくための原則的な指針として作られたものである。

特に大原則である「サプライチェーン全体での付加価値の向上」は私も7年前に呉服業界若手経営者の会で提唱した「株式会社呉服業界」という精神と全く同じであり、「どの段階であっても取引は対等である」という考え方と全く同じであることは個人的に非常に支持するところである。 ここで今回のブログの本題に戻るが、この商慣行のあり方への賛否を各業界団体へアンケートという形をとったところ、ほとんどの川上、川中の業界団体及び組合・企業から同意賛成するとの回答があったが、一番肝心の小売の最大の団体である「日本きもの連盟」は一部賛同というある意味消極的な回答をしてきた。

その理由も公表されているのでわかりやすく説明すると、 


*各流通が適切に機能を発揮し、消費者の商品・サービス提供し、継続的な信頼関係を構築することで市場活性化と業界全体の発展の好循環を実現することを目的とすることは大いに賛成である。

*日本きもの連盟としても全日本きもの振興会と連携して各振興事業を積極的に行っている。

*その上で和装振興協議会が示した「商慣行のあり方」については、日本きもの連盟としては会則に基づき運営している関係上、会員個別企業の経営案件や取引条件を議論する場がない。

*受注業者の適正な利益を含む手形サイト90日、歩引きの廃止、製造者と販売業者の双方が協議して販売方法を決定する等の議論に当事外である日本きもの連盟が意見することはできない。

*日本きもの連盟の会員は製造業者との取引がほとんどなく、問屋との仕入れが大半であり、諸取引についての風聞以外の情報がないため取引の公正についてあれこれ意見を述べる立場にない。

*全ての商材の価格は和服小売の場合、その全ては、北は北海道から南は沖縄まで全小売店全て異なるのでこういう文言に違和感を感じる。

と言ったことが全て賛同ではなく一部賛同であることの理由だ。

簡単にいえば、日本きもの連盟として各小売店の商慣行に口を出す立場ではないという回答である。

ここからはあくまで私見として述べさせていただく。 私自身は小売出身であり、現在も小売店の経営支援等で規模の大小関わらず日々関係しているし、一方で産地から中間流通、あるいはその間に存在する悉皆、和裁、着付師、各業界団体に至るまで現場レベルでの仕事に携わっているので相対的な立場から意見できる。 その上で今回のこの日本きもの連盟の回答については腑に落ちない部分が多々ある。

はじめに申し上げておくと、日本きもの連盟がきものの日事業や和装教育等に尽力されていることは周知のとおりである。それ以外に様々なことに団体として努力されていることは承知の上での疑問であることを記しておく。

まずは「商慣行のあり方については、連盟の会則に基づいて運営している関係上個別企業の経営・取引条件等を議論する場がない」という回答だ。これはその次の手形サイト、歩引きなどの支払い条件についても同様の回答をしている。

日本きもの連盟の会則を見ると会の目的として【国民生活における和装生活の普及と和装文化の普及を目的として、この目的を達成するための和装市場の創造拡大施策の実施と本事業に参加 する会員店の経営発展活性化事業を推進する。】とあり、また事業4の2では【和装産業活性化と振興事業の強化充実を計るため、他和装諸団体との連携事業】、さらに事業4の3では【和装産業の諸問題を検討し、対応する事業】とある。 連盟の会則の中で目的や事業として定めている項目を見る限り、1つの団体で会として体をなしている以上、議論する場がないというのは理解に苦しむ。

和装産業活性化の強化を図ることを目的とするならば「商慣行」については総合的に見て根幹にあたる部分であり、避けては通れない。その議論を無くして「和装産業の活性化」は図れないと言っても過言ではないと思うがいかがだろうか?

確かに呉服業界の流通は長い時間をかけて構築してきた信頼関係が取引の大半を占めており、発注業者と受注業者間の取引条件が、たとえ一般論として納入業者に不利に思える条件であったとしても、長い間に築いた信頼関係によって相互了解のもとに決定した取引はどの法律にも抵触しなければ正当な取引であるという考え方である。 だが、時代は大きく変化し、どんなに今までの取引の正当性を訴えたとしても市場縮小が進み、従事者の激減、価格や取引に対しての不信感が大きくなってきている今、こう言った商慣習の是正を小売も本格的に取り組んでいかないと未来はないことは明白である。

その上で連盟が会員および呉服小売に対してものを申す立場にないというのであれば、一体日本きもの連盟は具体的に会則にある【和装産業活性化と振興事業の強化】をいかにして図っていくのかが全くわからない。

もう1つ考え方のスタンスとして「全ての商材の価格は呉服小売の場合、その全ては北は北海道から南は沖縄まで全小売店で異なる」というのは現実的には確かにそういう状態であることは否めないが、連盟としてそう言い切ってしまうこと自体が消費者の価格不信の根元につながるほか、全ての商材の価格と一括りにしてしまうこと自体、消費者の呉服小売店への不信感を払拭できない大きな要因になっているのかもしれない。こういう考え方にも大きな疑問を抱かずを得ない。

長々と記してきたが、私がどうこう言ったところで何かが動くわけでもないが、個人であるが業界に身を置き、業界を心底愛する気持ちは誰にも負けないという自負がある以上、個人的な意見としてはこう言った形で業界全体が変わっていこうという時にこういう連盟の姿勢はとても残念でならない。

これからの時代、間違いなく「呉服業界総小売時代」となると予測される。川上から川中までもが直接的に前に出て行くいう現象はすでに始まっている。これは情報化社会において当然の如く起こることであり、突き詰めて考えれば現在の商慣行がもう通用しないところまで来てしまったということに他ならない。適正な価格とは何か?付加価値の向上とは何か?消費者の信頼とは何か?を全面的に呉服業界をあげて改善する時が来たのではないかと思う。

和装振興協議会としても、呉服業界全体としても、本当にこれからの和装産業活性化を図って行くためには、大きな力を持つ人たちや団体が未来現実を考えた改革に取り組むべきであり、現行のままの既得権益を各段階の企業が守ろうとするのであれば、その先にあるのは利益ではなく、損失しかないと私は思う。現行のまま行き止まりの道を進むか?険しくも新たな道を開拓するか?の分岐点はとっくに来ていることだけは確かである。

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