年頭所感
年頭所感
あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりありがとうございました。本年は亥年ということで文字通り猪突猛進にて頑張りますので何卒よろしくお願いいたします。
昨年は1月の成人式の日にいきなり業界の信用を失墜させるような大変な事件が起こりました。当事者は逮捕起訴され、現在裁判中ということですが、被害に遭われた方々の怒りはもちろんですが、全国の和装業界や関連業種への影響も計り知れないものとなりました。すでに経産省の和装振興協議会でも成人式関連の商取引についての指針を出し、業界のコンプライアンスの強化と信頼回復に努めてはいるものの一度失った信用はそう簡単に取り戻すことはできないと思います。
その後昨年の振袖ビジネスは多くの小売店や流通に非常に厳しい現実をもたらしました。それだけでなく、振袖以外の本来の呉服店の営業も並行して非常に厳しい現実をもたらしました。その時は私も含め多くの人が1月の事件の影響によるものという考えが巡りました。
ですが、冷静に様々な分析をするとそうではないことに気づきました。
確かに1月の事件の影響は2月3月に顕著に現れ、特に振袖のお客様の動きの変化や契約により慎重になったこと、クレジット会社などを含めた取引先が振袖はもとより着物業界への取引の考え方が大きく変化したことなどがありました。しかしながらその後の業界の厳しい現実はあの事件がもたらした影響と考えるのはあまりにも他責的な考え方であると気づきました。
呉服業界という小宇宙の中で考えれば確かに大きな出来事でしたが、もっと広い社会に目を向けるとそれ以上の大きさとスピードで変わっているのです。
それは「消費の変化」です。
小売とテクノロジーは今や密接な関係にあり、消費動機、消費価値観、消費欲求などの多くはネット上から取得し、企業の情報発信も各企業HP、SNS、リスティング広告やYoutuber、インフルエンサーなどネット上の影響力の強い人を使うなど、消費者の情報取得の仕方の変化のスピードがテクノロジーの進化によってより早まり、昨年は更に加速したように思えます。
またフィンテックの進化も止まることなく、昨年はPayPayやLINEPayなどがより浸透しキャッシュレスのライフスタイルが進みつつあることも現実です。
海外ではAmazonの時価総額が1兆ドル(約100兆円強)に達し、中国のアリババは独身の日の売上がたった1日で3兆円を突破するなど、世界のECの売上規模の拡大はとどまることなく大きくなっていっています。
呉服業界の小売店はどうでしょう?多くの店が店頭は開店休業状態で、新しいお客様を迎える場ではなく、催事の準備や作業をする場になっており、月の売上は催事で売上をとる体質となり、毎回同じ顧客に売上を依存し、顧客は枯渇し、結果的に売上を落とし続けるという状況です。
また、ナショナルチェーンやローカルチェーンといった大規模小売店も店頭の大切さは感じつつも、月々の予算達成を意識するあまり現場はインショップという利点がありながらも、既存顧客によって催事売上の確保を常に注視するというマネジメントに陥っています。またその一方でネットショップを併用し絶対的な販管費率の低さや収益率の高さに気づいており、ショッピングセンターなどへの出店における固定費や人件費を考えると今後は店舗数の縮小などで特にナショナルチェーンがローカルチェーンに変化することも考えられるだろうと思います。現に大手5社と言われたナショナルチェーンのうち4社の規模はいまやローカルチェーンといって良いほどの規模に縮小しています。
冷めた言い方をすれば呉服小売店は商品の性格上稼働顧客の一定量を保てるか否かが重要なビジネスです。ですが、これまであまりにも閉鎖的な顧客管理をしてきたことから、顧客の増減率のバランスが非常に悪い業種であることも事実です。それほど新規顧客獲得は難しく、またそこから固定顧客化することに根気が必要なのです。それを長い間怠ってきたことで変化への対応力の低さや旧態然とした経験則からのマネジメント、厳しい時の他責的概念を持つなどが蔓延してきたのではないかと思います。それが結果的に昨年の「消費の変化のさらなる加速」にいよいよ対応することができなくなってきたのではないかと考えざるを得ないのです。
私は仕事上海外へ出張することが多いのですが、ニューヨークやシンガポールなどの小売はすでにECとリアルショップの闘いが激化してきています。特に前述したAmazonを仮想敵としてリアルショップは様々な工夫をしています。
全米に店舗を持つ百貨店メーシーズは以前までの戦略である低価格戦略を改め、体験型、体感型店舗への変換をし、客数を増やしています。また世界最大の小売店と言われているウォルマートは全米上位のEC企業を買収し、ネット販売効率と売上拡大の戦略強化を図っています。またニューヨークで人気の雑貨店である「ザ・ストーリー」はARなど駆使して、好きな雑貨やインテリア家具を仮想空間でそれらを使用する体感が出来るオペレーションを組み込んで客数と客の滞在時間を長くし売上を向上させています。IKEAもARを駆使したアプリを開発し、店に行く前にお目当ての家具が自分の部屋に合うかどうかをサイズも含め確認できるようにして売上効率と客単価の向上を図っています。
これらは企業の資金力の有無に関わらず、リアルショップがいかにして顧客に支持されるかを常に考え、そこに投資しチャレンジするという姿勢なのです。もちろんEC企業も競争は熾烈ですから常に変化への対応するために努力しています。
これから5Gという次世代通信インフラが整います。それによって今の何倍ものデータ送信量が可能になり、ライフスタイルがさらなるテクノロジーの進化によって変わってきます。
新しい年を迎え、私たち呉服業界は本当の意味でどの道を進んでいくか?を選択せねばならない岐路に立たされました。
小売店はリアルショップにしかできない「コト」とは何かをすぐに考え実行していくことをしなければなりません。店はお客様のためにあります。商品置いてある倉庫ではありません。そしてこれからの店は「売り買いする場」だけでは誰も振り向いてくれません。売り買いするだけならば便利なECに顧客は向かってしまいます。
顧客にとってこれからはリアルショップは「楽しめて」「発見できて」「学べる」という【遊び場】でなくてはいけないと思います。そういう店づくりが重要になってくると思います。そして新規顧客の開拓はそんな綺麗事ではなくある意味泥臭いものです。スマートな顧客づくりなどはなく、入口を広げ、出会いを大切にし、買った金額によって差別せず、その後のフォローをコツコツと積み重ねることが大切です。それがリアルの店経営であることをぜひ理解していただきたいと思います。
中間流通である問屋は今までの在庫機能、販促機能、金融機能、ディストリビューター機能に加えてモノづくり機能、マーケティング機能、プロモーション機能、コストコントロール機能という新たな役割に投資していくことが必要です。小売と協業することと同時にメーカーや生産者との協業も非常に重要になってくると思います。メーカーや生産者はテクノロジーの進化によって消費者と関係性を持つことができました。その中でこれからの問屋の役割は大きく変わってくるということです。そして間違いなく問屋としての新しい役割が重要となってきます。問屋は今の中間流通という立ち位置から商品に命を吹き込む「付加価値創造企業」という役割に進化することが求められていると思います。
メーカーと産地、生産者は恐らく委託中心の商品の流れにさらに苦しい状況に直面していると思います。生糸価格も含めた原材料の高騰、取引業社の廃業、価格を値上げ出来ないジレンマ、委託しても歩留まりが少なく、商品価値だけが下がっていく状況、次の商品を作るに作れないと言った状況。それによって次世代従事者がいない、家内操業における後継者の不在など負の連鎖が高まっていることも多いのでないかと思います。とてもじゃないですが、綺麗ごとを言ってる場合ではありませんし、夢のようなことを語っている場合でもないと思います。ですが敢えてそれでも前向きな話を言わせていただきます。
メーカーや産地、あるいは職人の強みはその商品はその企業またはその人にしか出来ないということです。自社の商品を何故知って欲しいのか?何故提案したいのか?着てくれる人にどんな事を味わって欲しいのか?などをどうやって知ってもらえるか?を考えることです。「知られないことは存在しないこと」ということを私は業界のすべてのカテゴリに言い続けてきました。この時代になって私たちはその「知ってもらうこと」への方法を手に入れています。だからこそ「私たち」と「私たちの商品」をどのようにして知ってもらうか?をもう一度考えてみてはいかがでしょうか?そしてそれを継続することで必ず何かの成果が出ると思っています。
消費の変化はこれから更に大きくなっていくと思われます。今年一年はそれをより実感することになるかもしれません。変えなければいけないことと変えてはいけないこと、チャレンジすることと守っていくことなど線引きもより重要になっていくことでしょう。
私としても次の若い人たちが色々な繋がりを持ってチャレンジしようしていることを嬉しく思いますし、私個人としては別のステージで次の時代を開いていけるような新しいチャレンジをしていきたいと思っています。
あらためまして今年は今上天皇陛下の御譲位と新天皇陛下の御即位に伴う新元号への改暦、消費税増税など色々なことが起きる一年となるかもしれません。そんな新しい激動の一年の始まりですが、何卒よろしくお願いいたします。
K.D.CPlanning 代表 石崎 功
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